「うる星やつら」の博物誌

原作 05.10 翔んだドラキュラ
    05.11 愛の献血運動

テレビアニメ 第五十話 翔んだドラキュラ
1982年5月12日放送


おもな登場人物

・ドラキュラ伯爵
・カラス
・コウモリ(オス)
・あたる
・あたるの母
・あたるの父
・トラ猫
・コウモリが変身した女の子

アイテム
・ギョーザ
・ニンニク
・鉛筆で作った十字架
・誤字だらけの恋文
・天中殺
・あたるのMEMO帳(女の子の住所が書かれている)
・ラムが塀に描いた、ドラキュラの似顔絵
・公園のトイレ
・色々な動物の血

備考
鬼族 ラムやテンはニンニクが嫌い


あらすじ

05.10 翔んだドラキュラ

ドラキュラ伯爵が、コウモリの案内で、ラムの血を吸いに行く。

その日、諸星家の晩御飯はギョーザであった。ラムとテンが、あたるのニンニクの口臭に辟易していると、あたるが、ラムを困らせよと、思い切り息を吐きかけ ようとする。

ラムとテンがよけたときに、たまたま、ドラキュラの顔に、息がかかり、ドラキュラは、卒倒する。

次に、あたるは、鉛筆で十字架を作り、ラムが怖がるかどうか試すが、ラムは全く怖がらず、それがドラキュラに当たり、ドラキュラはまたもや卒倒する。

ドラキュラは、誤字だらけの恋文をラムに出して、ラムを呼び出し、血を吸おうとするが、カラスに邪魔をされてあきらめて帰る。


05.11 愛の献血運動

コウモリがドラキュラのお使いで、ラムを誘いにくるが、ラムに、にべもなく断られる。

あたるは、女の子を紹介してもらうという条件で、コウモリに、MEMO帳に載っている女の子を紹介する。

コウモリは、人間の女性に化けて、あたるをごまかす。

結局、MEMO帳に載っている女の子たちには、ことごとく断られ、血は集まらない。

そこで、あたるは、猫や犬の血を採って、それをコウモリに渡す。

そして、あたるが、女の子に化けたコウモリに迫り、キスをすると、コウモリは姿わ現し逃げて行く。


ドラキュラ伯爵

今日、吸血鬼のことを、ドラキュラと呼ぶようになったのは、ブラム・ストーカーの「ドラキュラ」という小説に端を発します。

モデルは、15世紀のルーマニアに実在した、プラド・ドラキュラ伯ですが、もちろん彼が本当に吸血鬼であったわけではありません。

この辺のところは、書籍や専門的なHPが数多くありますので、そちらをご覧下さい。


吸血コウモリ Vampire (ヴァンパイア) 


朝日ラルース 世界動物百科 より

現在では吸血鬼と、コウモリは、セットのようになっていますが、しかし両者が結び付けられたのは、大航海時代に南米で吸血コウモリが発見され、それ に、Vampire(ヴァンパイア)と名づけられてからのことだそうです。

ところで、吸血コウモリ Vampire は、学名と英名にネジレがあるために、少し混乱が生じているようです。

Vampire を冠する学名のコウモリは、Vampyrum spectrum (チスイコウモリ・モドキ) だけで、これは、モドキで すから、吸血コウモリではなく、果実や虫を食べているとても大人しいコウモリです。

英名は、spectral bat といいます。(モドキコウモリ) とでも訳せばよいでしょうか?

では、実際の吸血コウモリの学名は? というと、これは、Desmodus rotundus といいます。そしてこの英名が、Vampire bat となっています。

更に、科と亜科などの分類も分かりにくいようで、朝日ラルース 動物百科の分類すらどうやら間違っているようです。

朝日ラルースでは、ヘラコウモリ科が、Phyllostomatidae となっているのですが、Phyllostomatidae は、Vampyrum spectrum や Desmodus rotundus の2つ上のグループで、「新世界のヘラコウモリ科」という部類になるのだと思います。

実際の、ヘラコウモリ科(別な分類方法などでは亜科)は、Phyllostominae というのだと思います。下に表に整理してみ ましたので、専門の方に確認していただけるとうれしいです。

吸血コウモリの分類
Phyllostomatidae
新世界のヘラコウモリ
亜科 Desmodontidae
チスイコウモリ
Desmodus
Diaemus
Diphylla
Desmodus rotundus
ナミチスイコウモリ
Diaemus youngi
シロハネチスイコウモリ
Diphylla ecaudata
ケアシチスイコウモリ

チスイコウモリ・モドキの分類
Phyllostomatidae
新世界のヘラコウモリ
亜科 Phyllostominae
ヘラコウモリ

Vampyrum


Vampyrum spectrum
チスイコウモリ・モドキ

ところで、アシモフの雑学コレクション 星新一訳 新潮社 という本に、、「吸血コウモリは、凶暴なイメージだ が、実は、爪先で引っかいて、血が出たところを、そうっと舐めるだけである」というようなことが書かれていたと思うのですが・・・・

どうやらこれは誤りであるようです。吸血コウモリは、やはりかなり凶暴で、獲物を鋭い歯で噛み、血が流れ出したところを、舐めるそうです。唾液には血液の 凝固を妨げる成分が含まれているために、血液は何時間も固まらないそうです。

そして、吸血コウモリは、時に血を吸いすぎて、腹がパンパンに膨れて飛べなくなり地面に落ちていることがあるそうです。Desmodus rotundus の rotundus は、「丸々とした」というような意味があります。これは、血を吸いすぎて、丸々となるからだそうです。

蚊も血を吸いすぎて、飛べなくなるのを見かけますが、なんとなく似ています。

血の代用

動物の血
あたるは、女の子から血がもらえないので、猫や犬から血をとる。

これに似た話が西洋の昔話にもあります。

医者と金持ちとその娘

 ある金持ちの男が、自分の血を採血して、医者に調べてもらおうと思い、採血した血を娘に預けて、しまっておくようにと言いつけた。

 ところが娘は、この血の標本を、きちんと保管しなかったので、犬がこぼして、あらかたなめてしまった。娘は父親に叱られるのを恐れて、自分の血を採血す ると、その容器に入れた。

 医者はこの血液を検査して驚いた。そこには明らかな、妊娠の兆候が見られたのだ。

 医者から診察の結果を聞いて金持ちの男は仰天した。そいて彼は、きたる出産について、只々恐怖した。

 一方家族の者たちは、医者の診察結果を疑い、この件について慎重に調べた。そして、こぼれた血を発見し、娘を問いつめ、それが娘の血であり、娘が妊娠し ていることを白状させた。


最近のスポーツ競技では、ドーピング検査をすり抜けるために、他人の尿と摩り替えるというようなことが実際に行われているようですから、昔話を笑ってばか りはいられません。

この昔話の類話に、グリム童話があります。

グリム童話 三人の軍医

 三人の軍医が、腕自慢をして、一人は自分の手を切り、一人は自分の心臓を取り出し、もう一人は両目をえぐり出し、翌日それを元通りにすることにして、そ れを宿屋の女中に預けた。

 しかし、女中はそれをきちんとしまわないでおいたので、猫に食われてしまう。そこで女中は、絞首刑になった男の手と、猫の目と、豚の心臓で代用する。

 翌日医者たちは、それらをきちんと元に戻すが、豚の心臓をつけた医者は、隅っこの方を嗅ぎ回り、絞首刑になった男の手を付けた医者は、金を盗みたくな り、猫の目を入れた医者は、暗闇の中でもネズミが見えるようになってしまう。


このグリム童話と似た話は、日本の昔話や古典落語にもあります。

古典落語 犬の目

 目を患った男が、医者に診てもらうが、医者はもう手遅れだと、その目玉をくりぬき、きれいに洗った。しかし、目玉がふやけてしまい、もとに戻らなくなっ てしまった。
 
 そこで医者は、お日様で乾かそうと、目玉を外に干した。すると、目玉を犬に食べられてしまう。医者は仕方がないので、この犬の目玉をくりぬいて、男の目 にはめ込んだ。

 すると男は、「ありがとうございました。でも先生困ったことがあります。小便をする時に片足を上げなければなりません」


この他、日本の昔話の類話に、「どうにもこうにも」という話があります。

日本の昔話 どうにもこうにも

 日本の名医が、中国の名医と腕比べをした。両者とも凄い技をもっていて、互いに首を切って、それをきちんと元に戻した。

 次に、互いに首に紐を巻いて、同時に引き合った。二人の首は同時に落ちた。しかし、今度はその首を繋ぐ人がいなかったので、どうにもこうにもならなく なった。


恐らく手塚治虫も、これらの昔話をもとにして、ブラックジャックの「春一番」という作品を描いたのだと思います。

 ブラックジャックは千晶という娘の角膜移植をしたのだが、手術後、彼女は見知らぬ男が目の前に見えるようになったと言う。

 ブラックジャックが、眼球銀行に問い合わせると、元の角膜の持ち主は、乱暴されて殺されていた。

 千晶の見ていた男は、元の角膜の持ち主が、殺されるときに見た犯人の顔であったのだ。・・・・

この他、筒井康隆の「心理学・社怪学」という本には、これらのモチーフがふんだんに使われています。

美女に化けるコウモリ

 コウモリは、あたるに血液を集めさせるために、美女に化ける。

コウモリのキス
あたるは、コウモリが化けているとも知らずに、キス
をする。

美女に化けるコウモリ
コウモリと知って、後悔するあたる。

「スペース・バンパイア」1985年 という映画は、この話とアウトラインは一緒です。

生物の生命力を食らうエーリアンは、獲物とする生物の理想の異性に化けることができる・・・・それを知らずに、宇宙船の船長は、エーリアンを連れ帰ろうと する。・・・・

という話なのですが・・・・このことについては、『玉の価はかりなき事』花輪和一 と一緒に面白い考察をしているサイトが既にあるので、そ ちらをご覧下さい。

参照サイト 最低映画館〜スペース・バンパイア

映画 咬みつきたい 1991年上映

テレビアニメでは、途中からランを絡ませており、原作漫画とはだいぶ違っています。ランは、人間の若さを吸うという、吸血鬼そのものなので、出演させたの でしょうが、美女に化けたコウモリと少しバッティングしているようにも思えます。

最後の落は、ランがドラキュラをを献血会場に連れて行くというものなのですが・・・・。

献血会場

僕はこのシーンを見て、緒方拳主演の、「咬みつきたい」という映画のラストシーンを思い出しました。

そこで、この映画について検索してみると、監督が、金子修介 なのです。

金子監督は、平成ガメラシリーズの監督として有名ですが、うる星やつらのテレビアニメの脚本も書いていたそうです。

この回の「翔んだドラキュラ」には、金子氏の名前はないのですが、・・・「咬みつきたい」という映画は、この「うる星やつら」の影響を受けているのは間違 いないと思います。

番外 天中殺

天中殺

最近は天中殺という言葉をほとんど聞きませんが、当時は大流行して、悪いことがあるとなんでもかんでも、「今日は天中殺だ」とのたまう人が大勢いました。

1979年には、「天中殺の女たち」というような番組が放送され、・・・・この番組では、天中殺の用語を、ドラマの途中で字幕を入れて解説する? とい うような、画期的な演出がなされていたと思います。

ところで、天中殺とは何か? というと、占いの一種のようですが、僕は興味がないので、興味のある方は、Google 天中殺 で調べてみて下さい。



2004/09/01
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