「うる星やつら」の博物 誌

原作 コミックス・ワイド版 01.01 かけめぐる青春
テレビアニメ 第一話 うわさのラムちゃんだっちゃ


おもな登場人物

・諸星あたる
・三宅しのぶ
・錯乱坊
・あたるの母
・あたるの父
・鬼の大将 (ラムの父親)
・ラム
・解説の山田さん
・スタート地点を横切る黒猫
・みたけお(総理大臣)

あらすじ

 銀河の彼方から鬼が地球を侵略しに来るのだが、鬼は地球を侵略するにあたって、一つの条件を出す。それは、「鬼のコンピュータが適当に選んだ地球の代表 が、鬼娘のラムと鬼ごっこをして、十日以内にラムの角をつかむことができたなら、鬼はおとなしく帰る」というものだった。

 このコンピュータに選ばれたのが、諸星あたる であった。あたるはラムを、必死に追いかけるが、ラムは空を飛ぶことが出来るので、なかなかつかまらない。八日目に、なんとかラムの身体にだきつき、ブラ ジャーを奪う。しかし九日目には、手痛い目に合い、意気消沈してしまう。そこで、あたるの恋人の 三宅しのぶ が、「勝ったら結婚してあげる。」と言って励ます。

 あたるは、しのぶとの結婚のことを思い、どんな汚い手を使っても勝とうと、ブラジャーをおとりにし、ラムの隙をついて、角をつかむ。
 この時あたるは しのぶ との結婚のことを思い、「結婚、結婚」と叫んだために、ラムは自分がプロポーズされたのだのだと勘違いし、それ以来、ラムはあたるをダーリンと呼び、あた るを追いかけるようになる。



鬼ごっこについて

この話でまず気になるのが、地球の運命を、「鬼ごっこ」で決するという点です。これは歴史学者のホイジンガという人が、「秩序を守った闘争は遊びである」 と言ったことに、ぴったりと当てはまります。

中世のヨーロッパでは、戦争の決着を、選ばれた少人数の騎士で決することがあったそうです。例えば、ブルターニュのプロエルメルで、30人のフランス勢 と、イギリス、ドイツ、ブルターニュ人の連合チームとの間で決戦した、「トラントの戦い(三十人の戦い)」 1351年。

中世以降でも、十三人のイタリア騎士と、フランス騎士との間で決戦した、「バルレッタの挑戦」1503年 (この決闘にイタリアが勝利したことで、イタリ アに民族意識が芽生えたと言われている)

更に、こういった少人数による決戦は、旧約聖書にも見られます。


旧約聖書サムエル記下2 イスラエルとユダの戦い

10.サウルの子イシュ・ボシェテは、四十歳でイスラエルの王となり、二年間、王であった。ただ、ユダの家だけはダビデに従った。

11.ダビデがヘブロンでユダの家の王であった期間は、七年六か月であった。

12.ネルの子アブネルは、サウルの子イシュ・ボシェテの家来たちといっしょにマハナイムを出て、ギブオンへ向かった。

13.一方、ツェルヤの子ヨアブも、ダビデの家来たちといっしょに出て行った。こうして彼らはギブオンの池のそばで出会った。一方は池のこちら側に、他方 は池の向こう側にとどまった。

14.アブネルはヨアブに言った。「さあ、若い者たちを出して、われわれの前で闘技をさせよう。」ヨアブは言った。「出そう。」

15.そこで、ベニヤミンとサウルの子イシュ・ボシェテの側から十二人、ダビデの家来たちから十二人が順番に出て行った。

16.彼らは互いに相手の頭をつかみ、相手のわき腹に剣を刺し、一つになって倒れた。それでその所はヘルカテ・ハツリムと呼ばれた。それはギブオンにあ る。


時代が下がると、これらの少人数の戦いは、騎士のトーナメントとなり、更に、現在のワールドカップサッカーもこれらの流れを汲むものなのかも知れません。

こうしてみると、うる星やつらの、地球の存亡を、「鬼ごっこ」に委ねる。というのは、戦争の究極的な形なのかもしれません。

話の構造について

第一にこの話は、「お姫様の結婚の条件」というような話の変形と考えられます。一般的にこの型の話は、結婚を避けようとするお姫様が、結婚の条件として、 「難題を解くこと」などの条件を出し、それができれば求婚者と結婚をするが、解けなければ求婚者は殺される。というような話になっています。

類話の中から、うる星やつらに近いものに、次のような話があります。



変身物語 
アタランタとヒッポメネス

 ある日のこと、アタランタは、夫を迎えるかどうかで、アポロンの神託を仰いだ。すると次のような信託が下った。

「アタランタよ、結婚は避けることだ。しかしお前は結婚を避けられないだろう。そして、お前は、生きながら、本来の自分をなくすことだろう」

 この神託にびっくりした彼女は、求婚者たちの群れを追い払うために、こんな条件を持ち出した。

「わたしに徒競走で勝てば、褒賞として、わたしという花嫁があたえられましょう。しかし、遅い人への報いは、死です」

 こうして、何人もの若者が命を落とした。・・・その中にヒッポメネスがいた。ヒッポメネスは、競走を前に、女神ビーナスにお祈りした。

「ビーナスさま、どうか、わたしに味方して、あなたが燃え立たせたこの恋の火にご加護を!」

 ビーナスは、心を動かされ、黄金の林檎を三つ携えて現れると、それをヒッポメネスに与えて、その使い方を教えた。

 合図のラッパが鳴り、二人は、競走を始めた。アタランタは、わざと足を遅らせて、しげしげと相手の顔を眺め、しぶしぶながら先頭に躍り出る。

 疲れきった彼は、一つ目の林檎を投げた。彼女は、光り輝くその林檎が欲しくてコースをそれ、林檎を拾い上げる。ここぞと、 ヒッポメネスが追い抜く。彼女は、スパートをかけて、遅れを取り戻し、再び彼を抜き去る。

 もう一度、林檎が投げられて、彼女は、やはり一旦は遅れたものの、相手に追いついたかとおもうと、すぐに追い抜く。

 もう最後のコースが残っているだけだった。

「この贈り物をくださいました女神よ、今こそお助けを!」

 ヒッポメネスはこう言って、野原の端の方に、黄金の果実を投げた。乙女は迷ったが、女神が、どうしてもそれを取りに行くように仕向け、そして、拾 い上げたその林檎を重くした。

 こうして、ヒッポメネスは、競走に勝利し、褒賞として、彼女を花嫁とした。



この話をうる星やつらに当てはめてみると、「アタランタ」が「ラム」で、「ヒッポメネス」が「あたる」、「女神ビーナス」は「しのぶ」となるでしょうか。 そして、ビーナスが与えた「黄金の林檎」は、しのぶの「結婚の約束」あるいは、「ラムのブラジャー」ということになるかもしれません。しかしこの話がすべ て、うる星やつらに当てはまると いうわけでもありません。

一番の問題点は、この鬼ごっこは、結婚の条件としてなされたものではないのに、あたるが、「結婚、結婚」と叫んだけで、なぜラムはあたると結婚しようと 思ったのか? この動機付けが全く見当たらないのです。

しかしこれは、ラムが文字通りの鬼であり、しかもこの鬼ごっこが、単に相手に触るというものではなく、"角"をつかむ。というものだったことが、これを解 く鍵になっているように思えます。

 角をつかむという行為は、鬼を完全に屈服させたということに他ならならず、この時点で、ラムの鬼としての性質は消失せ、あたるの支配下に置かれたと見る ことができます。(ここで言っているのは、実際にうる星やつらがそのような話である。ということではなく、そのような構造になっているということです)

 この時のラムちゃんは、本当の鬼のように見える。

さらに言えばこの話は、悪魔にとり憑かれたお姫様を救い出す話であり、或いは、鬼や龍や怪物からお姫様を救い出すというような・・・御伽草子で言えば、酒 天童子にさらわれた姫を助け出す頼光の話、古事記のスサノオの大蛇退治やギリシア神話のアンドロメダを救うペルセウスの話などと同じ構造になっているとい えます。

つまり、あたるは、ラムを助けるために、ラムと鬼ごっこをして、ラムに勝ち、ラムを救い、そしてラムを手中に収めたのです。このことは、最終話を見ると はっきりとします。

しかし、それよりもなによりも、鬼ごっこであたるに捕まったのだから、今度はラムが鬼になって、あたるを追いかけることになったというのが、一番単純で、 一番納得の行く解釈です。



番外 総理大臣について

鬼ごっこの九日目が終了したときに、あたるは、ラムを捕まえられないと意気消沈し、自暴自棄となり、「責任はすべて政治の貧困にある!!」と叫ぶ。

すると、総理大臣のカットになり、「勝てば世界的英雄ですから、諸星くんに国民栄誉賞をあげたい・・・」との発言がある。胸の名札には「たけお」とあ る。

ちなみに、うる星やつらが少年サンデーに掲載されたときの総理大臣は、福田赳夫です。


 
原作漫画では、
福田赳夫。

第67代総理 福田赳夫
1976/12/24 -1978/12/07


福田康夫
2003/8/31現在官房長官
父親は、福田赳夫。

テレビアニメでは、
田中角栄のようである

第64.65代総理 田中角栄
1972/07/07- 1974/12/09

田中真紀子
父親は田中角栄

訂正:
原作漫画の名札を「みたけを」と勘違いしていたのですが、HAROさんに、「み」は名札を胸に留めておくピンである。とのご指摘を受け訂正いたしました。
指摘ありがとうございました。2007/05/19


2003/09/21日
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